大判例

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高松高等裁判所 昭和57年(ネ)55号 判決 1983年5月12日

控訴人

西森秀男

右訴訟代理人

小松幸雄

被控訴人

岩井完二

右訴訟代理人

藤原周

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

(控訴人)

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文と同旨

二  当事者双方の主張は左に付加するほか、原判決の事実欄第二に記載のとおりであるからそれを引用する。

(控訴人)

訴外小松八郎(以下、小松という。)が訴外山下正三(以下、山下という。)に交付した金二五万円を、利息制限法所定の「みなし利息」とみるべきではない。その理由は次のとおりである。

1  原判決は金銭貸借の仲介には、単に貸主を紹介するに止まる場合と、それだけではなく、貸主紹介以外の仲介人としてなす難易さまざまの行為が伴う場合の二種類があり、前者は手数料が低く後者は手数料を高く請求し得るものと解しているようであるが、だからといつて仲介手数料の額について前者と後者の区別により当然に高低の差がつけられなければならない法律上の根拠はない。仲介手数料の額は、当事者の契約によつてのみ定まるものである。仲介人が単に貸主を紹介するに止まらず、貸主を担保不動産の所在地に案内したり、登記簿謄本を取つたりする等の行為は、金銭の貸借契約が成立しなければ仲介手数料が得られないため仲介人が手数料欲しさに契約を成立さすべく自己のために動くのであつて、貸主のため、あるいは、借主のためにしているのでは決してない。原判決が仲介行為の内容によつて前記のように仲介手数料の額に当然差があつて然るべきものとするのであれば、それは法律上事実上誤れる見解である。

2  原判決は、仲介手数料は、本来金銭貸借の貸主が仲介人に払うべきものとしているが誤まつた見解である。貸主が仲介人に良い借主を紹介してもらつたとして謝礼することは絶無でないが、本来仲介手数料は借主が仲介人に払うものであるし、社会の実態もそうである。だからこそ、仲介手数料に対する取締法もあれば「みなし利息」のような制限法条もあるのである。原判決が説示しているように仲介手数料が本来貸主(一応経済的強者といえる)が支払うべきものとすれば、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下「出資取締法」という。)第四条や利息制限法第三条のみなし利息規定は不要である。

3  小松の原審の証言によると、「山下に対する手数料として五パーセントの二五万円を支払つた」「山下から領収書をもらつた」「手数料とは紹介料だと思う」とあり、小松が山下に金二五万円を交付したのは山下に対する紹介料支払の意思であつたことが明らかであるし、山下は自分の仲介手数料欲しさのために控訴人と小松間の貸借を成立させるべく媒介を行つたのであるから、小松が山下へ支払つた二五万円は山下に対する手数料、紹介料の趣旨であつて、控訴人の山下に対する謝礼等の代払ではない。

(被控訴人)

控訴人の右主張を認めない。

1  山下の媒介を受けた小松には商人性がなく、控訴人の金融業も商行為に当らないので、山下のした媒介行為は商法上の仲立に当らず、同法五五〇条による媒介手数料請求権はない。仮に山下の行為が仲立に当るとしても、同人は結約書を作成せず、控訴人が融資できないときに替つての履行義務を負担したと解されないので手数料請求権はない。さらに、控訴人や山下のような金融業者が媒介行為をしても、その手数料請求権を取得する法律はなく、媒介手数料の支払義務の存否は、当事者と媒介した者との間の契約の有無にあるところ、小松と山下との間で手数料を支払う約束はなかつたから、小松が支払つた二五万円は山下の媒介に対する手数料ではない。

2  小松は充分な担保を有し、且つ町会議員である被控訴人の保証もあり、控訴人から融資を受ける可能性があり、山下には控訴人に小松を紹介する以上の行為を必要としない状態にあつたし、山下が右紹介以外に本件消費貸借につき関与した行為は、小松の経済的信用を増加させ、融資を容易にするものと評価できず、むしろ控訴人のために融資の返済を確保する手伝いをしたと評価でき、控訴人は山下の紹介により安全な融資ができたから山下に謝礼すべき地位にあり、小松は控訴人に替つて山下に二五万円を支払つたのである。

3  控訴人、山下は金融業者で親しい関係にあり、利息制限法の制限を回避する手段で借主を紹介し合つたもので、この仲介手数料の請求が許されるとすれば、借主は貸主の優越的地位から媒介手数料の支払を余儀なくされて、負担増に苦しまなければならず、出資取締法、利息制限法の目的に反することとなり、違法である。

三  <証拠関係省略>

理由

一当裁判所は原審で提出された証拠に当審で追加された証拠を総合検討した結果、被控訴人の本件請求は理由があると判断するが、その理由は原判決の理由を後記(一)のとおり付加訂正して引用するほか、後記(二)以下の説明を付加する。

(一)  原判決六枚目表七行目冒頭の「証人」を「成立に争いがない乙第一号証、原審当審における証人」と改め、同枚目表一〇行目の「五年位前」を「昭和五一年ころ」と改め、同枚目裏一一行目の「支払つた」から同一二行目の「こと」までを「支払い、山下から領収書を受取つたこと、小松は従前、山下から数回にわたり金員の貸付けを受け、その利息及び遅延損害金は月五分で、他に手数料、礼金その他の金員を支払つたことはなかつたが、妻小松香代名義でそれまでに訴外吉岡長男から数回にわたり貸付を受けた分については、吉岡に利息及び損害金のほかに手数料として貸金の五パーセント相当の金員を支払つてきたことがあり、その手数料は吉岡が他人から高利で借用した金員を小松に転貸するので、実質的には吉岡への利息金であつたと思つており、本件で山下へ仲介料の名義で交付した二五万円も、名目は山下の媒介に対する手数料とされているが、控訴人から要求されたものであり、しかも手数料額を貸金五〇〇万円の五パーセントとすることも控訴人が指示した経緯等よりして小松はこの二五万円の実質は山下と控訴人がいわば一体となつている貸主側へ支払を要求された金員と考えていたこと、山下が本件金員貸借に関して小松のためになしたことは小松を控訴人へ紹介しただけで保証等の負担は一切なかつたこと」と改め、原判決六枚目裏末行の「証人山下正三及び被告本人」を「原審当審証人山下正三、当審証人寺岡信義及び原審当審における控訴本人」と改める。

(二)  利息制限法第三条は、貸主が受ける元本以外の金員を、手数料その他、如何なる名義をもつてするかを問わず、利息とみなす旨規定しており、ここで「利息」とみなされる金員の給付とは、貸主に支払われたか、又は貸主に支払う旨の合意が成立した金員をいうものと解され、そうでない金員はたとえ貸主の勧告に借主が応じて仲介人へ支払つた金員であつても、みなし利息に該当しないことは、右法条の規定文言等に照して明らかであるから形式的にみると、本件仲介料名義の二五万円は借主の小松から紹介者である山下へ手交されたとみられるし、当時それが貸主の控訴人へ支払われる旨の明示の合意があつたという証拠はなく、後日右金員が山下から控訴人へ渡されたことを推断できる的確な証拠もない。しかしながら、二五万円という金額も含めて右金員の支払いは控訴人の指示にもとづいたものであるという原審当審証人小松八郎の証言の方が、それと牴触する原審当審における証人山下正三及び控訴本人の各供述や当審証人寺岡信義の供述よりも信用できるので、右二五万円は控訴人が山下と意思を通じて小松に対し利息制限法のみなし利息の規定を潜脱するため仲介料の名義で山下へ手交させたものと推断できること及び小松においても右金員は実質的には貸主である控訴人の五〇〇万円貸出に対する代償の一部と考えて支払つたことは、当裁判所が引用する原判決の理由三に説示のとおりであり、この認定に牴触する右証人及び控訴本人の各供述も措信し難いので、この二五万円は貸主ないし貸主側の控訴人に支払われたものとみるのが相当である。

(三)  控訴人は出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第四条等が貸金業者に媒介手数料を受取ることを認めており山下はその媒介をしたものであるというが、本件における控訴人は他人の金員を預つて融資したのでないから控訴人の行為は商行為に当らないのみならず、山下は単に控訴人を紹介したに止まり商法第五四五条以下に規定する各義務を履行したわけでないこと、その費やされた労力は控訴人のためのことが大部分であつて山下の大きな尽力により本件消費貸借が成立したという程のことでもないのに控訴人が山下に報酬を支払つた形跡がなく、小松のみが金員を負担させられたこと、小松は事前に山下に仲介料を支払うことを約していたのでないのに小松がこの二五万円を支払つたのは小松が借主の弱味から控訴人の指示に従つたに過ぎないことからみると、法律が貸金業者に媒介手数料の受領を認めていても本件の場合にあてはめることはできず控訴人の主張は採用できない。

なお控訴人は仲介にも難易種々の場合があり手数料もそれに応じて差があるというのを非難しているが、当事者の意思解釈及び民法六四八条、商法五五〇条は受任者仲介人らの尽力の程度により報酬等に差があることを是認していると解されるので、差をつけるべきでないという主張は採用できない。社会の実態もこれを当然のことと考えているとみてよい。

二よつて、被控訴人の本件請求を認容した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(菊地博 滝口功 川波利明)

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